意外と知らない日本茶のこと Vol.3

今回は前回の続き、淹れ方について書いてみたいと思います。

 

あくまで目安としての淹れ方

「お茶を淹れる」という簡単に思えることでも細かく考え始めるときりがない世界で、どこまでも追及できてしまうものです。そんな中で一番大事になってくるのは、どのお茶にも共通する“正解の淹れ方”というものはなく、あくまでもある程度の目安だ、という考え方だと思います。

茶葉は品種によっても異なりますし、同じ生産者さんのものでも収穫年によって異なります。同じ茶畑のものでも、入る袋ごとに微妙に違ってくるので全く同じだとは言えませんし、同じ袋に入っている茶葉でも袋の上の方にあるのは比重が軽い比較的大きめな茶葉で、袋の下の方には細かく比重が重い茶葉が残っています。

人の感じ方も十人十色で、濃い味付けの地域で育ったのか薄い味付けに慣れているのか、普段甘いものを好んで食べるのか、全く食べないのか、また季節や体調によっても感じ方は大きく変わってきます。

さらには、どんな場所で飲むのか、誰と飲むのか、いつ飲むのか、という条件も含めると全てに当てはまる正解の淹れ方を考えるのは非常に難しいことだとお分かりいただけるかと思います。

 

淹れ方について

茶葉

前回書いたとおり、煎茶は100gで1,000円くらいの煎茶、普通蒸し煎茶と言われるものを想定しています。

 

急須

一般的に多い急須、だいたい満水時に300ml前後、180-240mlくらいお湯を入れて使う2〜3人分までの急須を想定しています。1人用の急須を使われる方も増えていますので、ひとまわり小さい1人分の分量もあわせて書いてみます。

茶葉によって合う急須の材質や形、大きさなどもありますが、ご自身の手元にある急須を使ってまず淹れてみるというところから始めていただきたいと思います。

4つのポイント

美味しいお茶を淹れるためのポイントが4つあります。

それは茶葉の量、お湯の量、お湯の温度、浸出時間です。基本的にはこの4つをコントロールしてお茶の味を決めていきます。何となく淹れても良いのですが、この4つを少し意識するだけで淹れ方や味の再現性が変わってくると思います。

 

目安の数字

茶葉の量:5g ~6g

お湯の量:180ml ±20ml

お湯の温度:70~80℃

浸出時間:60~90秒

 

あくまでも目安ですが、1人でたっぷり飲む時、2人もしくは3人で少しずつ飲む場合はこちらを参考にしていただけたらと思います。全ての煎茶にこれが適しているとは言いきれないのですが、まずはこの辺で試して微調整してみてください。

 

一人分の場合

茶葉の量:3.5~4g

お湯の量:80ml~100ml

(お湯の温度 、浸出時間は上記と同じ)

2人分以上淹れる場合は茶葉の量は2~3gと言われます (個人的には2.5g以上ほしくなります) が、1人分の場合は少し茶葉の量を多めにするのが良いでしょう。実際少ないと味の厚みが出ず、物足りない印象を受けます。個人的な目安は3.8~4gとしていますが、茶葉によっては3.5gくらいで淹れるものもあります。1人分を3gとしているものもよく見かけますね。

とは言え、そのお茶のことを一番よく知っているのは作った農家さんやお茶屋さんなので、茶葉の袋に淹れ方が書いてある場合はまずそれを試してみるのがおすすめです。

 

茶葉の計り方

普段よくお料理をされる方はスケールをお持ちだと思いますが、持っていない方や、持っていても毎回測るのは面倒だという方もいらっしゃると思います。

その場合は茶匙がある方は茶匙で、茶匙が無い方はお持ちのティースプーンで何杯、と計るのが便利です。一般的には煎茶の茶葉はティースプーン一杯で約2gと言われています。普段はグラム数で考えるよりも、この茶匙で何杯、このスプーンで何杯というのを基準にされると良いと思います。この際、重要なのは毎回同じ道具を使うということです。そうすることで味の再現性を保つことに繋がります。

また、茶缶や袋からお茶をすくう時にはできるだけ茶葉を壊さないようにそっと、茶缶の場合は缶に沿って入れて缶を回すようにすくうこと、できるだけすくう茶葉の大きさに偏りが出ないよう大きな茶葉も細かい茶葉も、茎もバランスよくすくうことを意識するのもポイントです。

 

ニ煎目以降の淹れ方

温度について

テアニンを主とした旨味成分のアミノ酸類は比較的低めの温度で抽出されますが、渋味や苦味の成分となるカフェインやカテキン類は高い温度で抽出されます。

一煎目に旨味や甘味を味わい、ニ煎目以降温度を少しずつ上げて苦味や渋味を味わうのが一般的です。目安としては10℃ずつ、一煎目が70℃の場合はニ煎目は80℃、三煎目は90℃と上げていくと徐々に味の変化を楽しんで頂けます。

 

抽出時間について

二煎目は茶葉が開いてきているので待ち時間が無くても味は出ますし、30秒程度と書いてあるものもあります。個人的には待たずに淹れますが、どれくらい待つかはお好みで良いと思います。待てば待つほど濃くなります。

 

お湯の量について

お湯の量は基本的には一煎目と同じで良いと思いますが、茶葉によって少なくしたり、多くしたりします。多くなると薄くなります。

 

三煎目について

三煎目は二煎目より温度を上げるので、更に成分が抽出されやすくなるため基本的には待たずに注ぎますが、茶葉によっては10秒から20秒待ったりもします。

 

上記のように、二煎目、三煎目の目安となる淹れ方(待ち時間なし、お湯の量は同じ、温度を上げる)はありますが、どう飲みたいか、何煎まで飲みたいかをまず先に考えて淹れ方を変えていくことになります。

何煎も煎を重ねようと思えば、二煎目、三煎目の待ち時間を短くして一回に抽出される成分を少なく。三煎で飲み切るようにするには、二煎目、三煎目で成分ができるだけ出るように抽出時間を長めに取ったり、温度を高くします。ここでも、二煎目をしっかり出すのか三煎目をしっかり出すのかで淹れ方も変わってきます。

その他のポイント

お湯の冷まし方

お湯は何かに注ぐ毎に5℃~10℃温度が下がると言われています。しっかり沸騰させたお湯100℃を急須に注ぐと90℃、急須から湯飲みに注ぐと80℃、更にもう一つの湯飲みに注ぐと70℃まで下がります。お湯が冷めるまでただ待つのではなく、急須や湯飲みを温めながら短い時間でお湯を冷ますことができるので、効率的です。

二煎目はお湯100℃→湯飲みA90℃→湯飲みB80℃→急須、三煎目はお湯100℃→湯飲みA90℃→急須もしくは熱湯を直接急須へという流れになります。

 

この際、どの高さからどれくらいの勢いでお湯を注いでいくか、ということでどれくらいお湯が冷めるか、どれくらい空気が入るのかが変わるので意識してみると良いと思います。夏は気温が高く、茶器も比較的温かいためお湯の温度は下がりにくいのですが、冬になると気温が低く急須も湯飲みも冷え切っていますので、お湯はすぐに冷めてしまいます。少なくとも注ぎ替える手数の1回分は違いがあるように思います。

 

廻し注ぎ

湯飲み二つ以上に注ぎ分ける場合は、湯飲みA→湯飲みB→湯飲みCと注いだら、湯飲みC→湯飲みB→湯飲みA、湯飲みA→湯飲みB→湯飲みCという順番で注いでいきます。一般的に「廻し注ぎ」と呼ばれ、お茶の濃さとお茶の量を均等にすることができます。

 

蓋を開けておく

お茶を湯飲みに注いだら、急須の蓋は完全に閉めずに、少しずらすか、開けて置いておきます。急須のなかの蒸気が逃げるので、お茶を飲んでいる間に急須の中の茶葉が蒸れて成分が浸出してしまうのを防ぐことができます。

 

ここから先は個人的にはポイントだと思っていますが、かなり手探り中な内容になります……

 

急須の中の茶葉とお湯

急須の中のどこにどのように茶葉を入れて、どの高さからどれくらいの勢いでどの場所にお湯を落とすか、ということも微妙に影響してくると思います。

お湯を真っ直ぐ入れるのか、右回りに入れるのか左回りにいれるのか。右回りはエネルギーを入れる(しめる)、左回りはゆるめる、と言われています。奥田シェフの料理の本にも書いてあり、地球の自転の方向や陰陽の考え方にも関係があるようです。目下研究中ですがすぐには答えが出そうにはありません。

 

飲む人のことを想う

よく相手のことを想いながら淹れるのが大事だと言われます。

相手のことを想って淹れると何か違うのか。個人的には、何かは違うのだろうと思っています。人は意識できていることよりも、無意識と呼ばれている部分が圧倒的に多いと言われています。相手を想うことにより、意識で受け取る情報や頭だけで考えたことだけでなく、身体全体で受け取る、意識に上がらない情報のようなものを感じられるのではないか、そのことがお茶を淹れることに意識できないレベルで何かが影響しているのではないか、と思います。

無意識の話を意識の上で言語化して語るのはその時点で矛盾があり、このことを実証するのも難しいので、これもまた答えを出せそうにありません。答えが出ないついでに言うと、お茶を飲む相手のことを「想う」のと「感じる」というのでも微妙に違いがある気がしますし、お茶を飲む人自身が気づいていない潜在的なニーズのようなものを、どのような形でお茶を淹れる人が満たすことができるのか、考えています。

 

意図と作為

お茶を淹れようと思った時点で「お茶を淹れる」「この茶葉の良さを引き出したい」ということを意図をしているので、徹頭徹尾自分の意図や意識を入れないということは不可能ではありますが、個人的には作為的にならないお茶がいいなと思っています。どういう風に淹れるのがこの茶葉にとって良いのか考えて意図して淹れ始めるけれども、「自分」が入っていないお茶、そういう意味で作為がないお茶、淹れた人が前に出ないお茶、ある意味では普通のお茶。よく「おばあちゃんが淹れたお茶が美味しい」と言われますが、お茶を淹れるのに慣れていること以外にもあの何気ないお茶にはひょっとしたらこんなことも影響しているのかも、と思っています。

 

ととのった状態で

それともう一つ理想としていることは、自分が常にできているとは言い難いのですが、常にととのった状態でお茶を淹れるということです。お茶を飲んでととのう、という健康効果は初回にも書いた通りですが、お茶を淹れる人がととのった状態であることが美味しいお茶を淹れるポイントでもあるのではないか、と考えています。疲れた状態、寝不足の状態でお茶を淹れると単純に手元が狂うこともありますし、同じ空間に居ればお茶を淹れている人の状態や空気感をお茶を飲む人が感じてしまいます。

そういう意味でも、お茶を淹れる人自身が日々お茶を飲むこと、充分な睡眠、適度な運動、ストレスを減らすこと、そしてプラントベースでヘルシーな食事で自分の状態をととのえておくは大事だと思います。美味しいお茶を淹れるためにもまたveggyを読み直したいと思います。

今回は一般的な普通蒸し煎茶の淹れ方について書いてみました。あくまで個人的な目安ですので、ちょっと違うな……と思われる方もいらっしゃるかも知れません。皆さんも自分の目安や基準を見つけて、体調や茶葉によって調整できるようになることが大事です。自分で飲む時は自分自身のことを感じ、誰かに飲んでもらう時はその人のことを想いながら、煎茶を楽しんで頂ければと思います。

 

文・写真/正垣克也

カフェ「お茶と食事 余珀」店主、日本茶インストラクター。茶道と日本茶、オーガニックでプラントベース なライフスタイルをゆるりと発信中。お店では身体にやさしい食事やお茶、リラックスできる空間を提供する。

Instagram:@shogakik

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