これからは「食べられるジャングル」の時代!?

東京の生活で気づいていった複雑な現実。様々な思いを巡らせて鎌倉へと移り住んだ、 ポップでキッチュな作品で話題となったアーティストであるデイヴィッドの新たな考えとは?

David Duval-Smith

デイヴィッド・デュバル=スミス 1970年ニュージーランド生まれのグラフィックデザイナー、アーティスト。イギリス生まれのマイケル・フランクと共に、グラフィック、映像、立体等を手掛けるクリエイティブユニット『生意気 namaiki』をスタート。近年はパーマカルチャーなどを学び、自然や農業をアートと繋ぐなど、様々な活動をしている。
www.namaiki.com

都会に住んで、エコだと思ってオーガニックの物を買って過ごしているだけじゃ、今はもう間に合わない所まで来ていると思った。だから僕は田舎に移り住んで農業を始めたんだ!

普通の人ではどれが草か、植えた植物なのか見分けがつかない程

都会ではお金がないと完全にオーガニックの生活って送れないでしょ。お金のある人しか出来ないなんて不公平じゃない? その矛盾に対して僕は自分なりにアクションを起こしてるところなんだ。
植物は何に対しても悪いことをしない純粋な生き物だよね。グラフィックやデザインは頭や口を駆使すれば言うことを聞いてくれるけど、植物は自分の思う通りにはならない。だから植物を知ること自体がとてもクリエイティブで奥深いし、学びになるよね。この鎌倉の畑は今年の11月で2歳になるんだけど、最初はほぼ一人で始めて、最近では色んな人が面白がって手伝ってくれるようになったよ。
昔は多くの人がカッコイイと思う仕事をして、がんばってお金を稼いで、そのお金で高いオーガニック食材を買っていたけど、だんだんそういう事自体に矛盾を感じ始めたんだ。そこでエコだとかオーガニックなんて言ってるんだったら、自分なりに何かやってみようと思った。東京に住んでいた時は時代の流れからか、環境にやさしいなんて打ち出したポスターのデザインをお願いされてた事もあったけど、結局はそれが最終的にゴミになってしまってエコじゃなかった。「これって偽善者だよね!」と自分に問いかけ始めてから、まず東京で庭付きの古い家に引っ越して植物を育て始めたんだ。でもやっぱり東京の庭の広さでは限界が出てきて、何処か移り住む場所がないか探し始めたんだ。それからしばらくして友達のツテもあって、ようやく鎌倉で広い畑つきの家を見つけたんだよね。しばらくの間は東京から鎌倉へ畑を耕しに通ってたんだけど、やっぱり植物はいつも見ていなくちゃダメだと感じて、思い切って鎌倉に移住したんだ。

自分が抱えている見過ごしたい矛盾としっかり向き合って、その矛盾が無くなるような生き方をする、人生においてそれが一番素晴らしいと思うんだ

庭でパーティーや食事をする時に重宝する手作りの窯

多くの人からすると、僕の考え方って究極的な考え方だと感じるかもしれないけど、僕はそうは思わない。多くの人が自分の中の矛盾に向き合わずにいるだけなんだよ。今まで僕はデザインを通して頭や口で描いただけのメディア活動だったけど、今は自分がしっかり体を動かしてゴミが出ない作品を作っていきたいんだ。要するにこれからは自分のアクション自体がメディア活動なんだ。自然に育てた植物はおいしいしくて人間が元気になって、水や空気も綺麗になって自然が潤うし、シェアリングという分かち合いの気持ちも芽生える。 僕はもともとアーティストだから、何をするにしても誰かに伝えないと意味がないと思ってる。今となっては昔僕が作った作品は、結局ゴミになるものばかりだった。僕のデザインした作品は世の中である程度評価されたけど、それに対しては何の執着もない。もちろん僕の作品に触れて喜んだり笑ってくれる人もいたから、そういうのはうれしいし別に嘆いてるわけじゃないけど、今僕が作っている野菜は失敗しても決してゴミにならないんだ。それって物凄く素晴らしいことじゃない? 僕の中の矛盾はまだまだあるけど、昔に比べたら少しは楽になったよ。 この鎌倉は意識が高い人が多いから気に入ってるんだけど、それでも僕はさらに田舎へ引っ越そうと、準備をしているんだ。でもこの場所を管理してくれる人が見つからないと移れないから、今探しているんだ。この空間は多くの人と「シェアリング」したいから、今後もこの場所がたった一人の人のための場所になって欲しくないんだ。この僕の考えるプロジェクトに理解がある人は少ないよね。ほとんどの人が物を所有したがって、何でも自分だけの物にしたがるでしょ。例えば突然今日からDJイベントやパーティーをここでやるとか、ピースウォーカーのお坊さんが20人ぐらい急に泊まりに来るとか、そういう事がいつでもウェルカムな心意気の人でなければ預けられない。要するにここはコミュニティハウスみたいな場所だから、当然ここに泊まったりする人からお金なんて貰わないよ。それが僕のやりたいプロジェクトの中でとても大事な「シェアリング」という意識だから。基本的に僕は個人の部屋というか、バックステージは要らないと思ってるんだ。今の僕は自分の時間なんてゼロで良いと思っているし、とにかく怠ける為にもの凄く働いているんだよね。

最近の気持ちとしては『生意気』から『本気』に変わったね

ベリーなど実のなる植物が好きでいっぱい植えてるデイヴィット

世の中の80パーセントの人たちが都会に住んでいるから、何でも大量生産をしなければいけない。それが大きな問題だと思う人は、田舎に移り住めば良いんだよ。全然難しいことじゃない。それが矛盾と向き合うってことなんだ。「しょうがない」と思って都会に住んでいるのは情けない事じゃない? 自分の中の「しょうがない」事は少しずつ解決しないとね。それに都会ではオレオレ派が多くて、まずは自分のこと、そして次に身近な家族や親しい友達の事しか考えられない人が多いよね。でも本当は自分の事なんて常に最後で良いんだよ。それが一番ハッピーな生き方なのに、それに気づかない人があまりにも多すぎるから、今や地球全体が病んでるんだ。都会でクーラーをガンガンにかけた部屋でオーガニック野菜を食べる。僕にとってそれは、ある意味恐ろしいことだね。 僕は外国人だから、日本のことをいつでも外から見てるんだ。もちろんニュージーランドへもたまに帰るけど、悲しい事に今のニュージーランドは実際はどんどん砂漠化してる。酪農で成り立っている部分が大きいから、広大な牧場ばかりで森林は伐採されて、土がオレンジ色で山も落ちてきてる。人間がどんどん自然を破壊してしまっているよね。でも僕がニュージーランドでそんな事を言っていると、権力者に思いっきり睨まれちゃう。日本は個人で国を破壊できる様な人物はいないでしょ。そこがニュージーランドとは違うよね。日本でも個人が広い土地を所有していたりするけど、ニュージーランドは土地が余ってるからそれとは比べ物にならない広さの土地を個人が所有していたりする訳だよ。そんな規模の自然が個人の利益によって壊されたとしたら、その威力は凄まじいよね。だから本当は法律である程度の規制を作って、好きなように使えないようにした方が良いと思うんだけどね。まあ権力者同士は繋がってるから難しいだろうね。もう本当にみんないい加減に気付いて欲しいけどね。

自然な環境に上手に全てを委ねる、それがパーマカルチャーであり、本物の自然農だよ

畳1枚破棄するのに千円かかるから、畳を貰って土に返すんだ
新木場の東京都現代美術館の地下1Fの『レストラン コントン』の中庭に作った食べられるジャングル

僕は農業において土を耕さないし、有機肥料や虫を殺す菌などはもちろん使わない。逆に虫が集まってくるような植物を植えているぐらいだよ。だって虫はお風呂なんて入らないのに、いつもピカピカで綺麗だと思わない? 僕は植物の中で、一般的な野菜よりも世界の野生植物に興味があるね。野生の力って凄いよ! ジャングルなんて何の手入れもしないのに、完璧に循環されていて凄くパワフルでしょ。だから近年の僕の活動のテーマは「食べられるジャングル」なんだ。最近は新木場の東京都現代美術館の中に、レストランが使える為の庭を作ったんだ。そこにハーブやベリー類だとか100種類ぐらいの植物を植えて、来客者が庭としても楽しめるスペースにしたんだ。 そんな感じでこれから色んな場所に「食べられるジャングル」を作るんだ! お金=リッチな生活には絶対に繋がらない。お金をかけずに、いかにリッチな生活を送れるか、これが今のテーマの一つであり、それを通してワークショップをしたり、多くの人とシェアリングしていきたいね。移住する千葉の田舎でゼロに近い生活からスタートして、何処まで行けるか挑戦するのが今から凄く楽しみなんだ。 僕はあえて人間によって破壊されてしまった場所を選んで、その大地をちゃんと再生させるんだ。土に溜まった毒素は色んなプロセスを経て数年で再生できるから、今はそれを独自に研究している所だよ。僕はリチャード・バックミンスター・フラーの「宇宙船地球号」やパーマカルチャーなど色んな本を読んで学んだけど、本当に良いことって、間接的であっても地球を破壊しない生き方だと思っているんだ。まあ僕もまだ完璧にできてないし、これからだけどね!
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雑誌veggy(ベジィ)バックナンバーVol.6より抜粋

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