“花粉症大国”イギリスのアレルギーケア

毎年春先になると猛威を振るい、日本では国民病と呼ばれるほど多くの人が患っている花粉症ですが、遠く離れたイギリスも同じように花粉症に悩まされている国の一つ。日本とは花粉の種類や時期が少し異なるイギリスの花粉症事情をご紹介します。

イギリスは花粉症発祥の国

実は世界で初めて花粉症が発見された国はイギリスで、遡ること1819年。

英語で花粉症は「Hay fever(ヘイフィーバー)」。Hay=干し草、fever=熱で“枯草熱”を意味し、当時は干していた牧草に近づくことで発症する原因不明の夏風邪のようなものとして、イギリスのジョン・ボストック医師により報告されたのが始まりです。

そして1873年になり、同じくイギリスのチャールズ・ブラックレイ医師によってその原因が「イネ科の植物の花粉」にあることが突きとめられました。日本における花粉症の歴史は、1961年の荒木英斉博士によるブタクサ花粉症の報告、1963年の斉藤洋三博士によるスギ花粉症の報告が最初とされているため、歴史的に見てもイギリス人はかなり長い間、花粉症に苦しめられてきたことがわかります。

ちなみにイギリスでは国民の4人に1人がこの「イネ科花粉」のアレルギーを持っていると言われており、日本でいうところのスギ花粉的存在なのです。

 

街を出るとひたすら牧草地が広がる典型的なイギリスの風景

 

日本では“花粉症≒スギ花粉やヒノキ花粉のアレルギー”というイメージが強いので、少しマイナーな花粉症にはなりますが、イネ科の植物は日本にもたくさんあって、代表的なものに「カモガヤ」や「オオアワガエリ」などがあります。簡単に言ってしまうと芝生や雑草類の多くがそうだったりするので、牧草地以外にも公園や空き地、道端など身近なところに生えています。

 

イネ科の花粉は風に吹かれても200mほどしか飛ばず、何kmも飛散するスギ花粉に比べれば可愛いもののような気もするのですが、牧草地や公園が多く、どこにでも芝や雑草が生えているヨーロッパではほぼ逃げ場がありません。そしてこのイネ科の花粉は5月の下旬頃から8月頃までが飛散のピークと言われており、今はその真っ只中。

 

前置きが少し長くなってしまいましたが、ここからは長い間花粉症と戦ってきたイギリスで実践されている花粉症ケアをご紹介します。

 

NHSお墨付きの「ヴァセリン」

 

花粉症大国であるイギリスでは、どこの薬局やドラッグストアにも必ず「Hay Fever」と書かれた棚があり、飲み薬から点鼻薬、目薬までだいたい日本と同じようなものが並んでいます。また基本的な薬であれば、スーパーなどでも買うことができます。

私自身、花粉症の症状がで始めた頃にいくつか買って試してみたのですが、どれも効かなかったり体に合わなかったため使うのをやめてしまい、他の方法を試してみることに。

 

 

まず最初に試したのが、イギリスで花粉症対策として一番信頼されている(?)ヴァセリンでした。

これは日本でもお馴染みのヴァセリンを鼻の下や鼻腔内、また目の周りなどに塗布しておくことで、鼻や目から体内に入ろうとする花粉をヴァセリンがキャッチし守ってくれるというシンプルなものなのですが、外出する前に塗ってみると確かに少し症状が和らいだ気がしました。

ただ、鼻腔内に塗ると少し違和感があったため、私は目の周りと鼻の下に少し塗る程度にしています。

 

いかにもおばあちゃんの知恵袋的なこのヴァセリンを使った対策ですが、イギリス国営の国民健康サービス「NHS(National Health Service)」のウェブサイトを見てみると、自分でできる花粉症ケアとして一番最初に紹介されているほど、国が推奨している方法でもあります。

 

NHS 「Health A to Z」Hay Fever : https://www.nhs.uk/conditions/hay-fever/

 

花粉症の時期はティッシュで鼻を何度もかむので肌が荒れてしまいがちですが、ワセリンを塗っておくと保湿にもなるので、そういう意味では効果を感じなくてもとりあえず塗っておいても良いのかなと思います。

 

長期的に取り入れたい「ネトルティー」

 

もう一つ、イギリスをはじめヨーロッパで広く浸透している花粉症対策が、ネトルティーを飲むというもの。

ネトルはヨーロッパなら割とどこにでも生えているかなりメジャーな多年草で、茎と葉が無数の棘のような毛で覆われているのが特徴です。この刺毛にはヒスタミンやアセチルコリンといった物質が含まれており、うっかり触れてしまったりすると、もう本当に痛い!  Tシャツや薄い衣類は楽に貫通してくるので、ネトルを触るときは厚手のグローブが欠かせません。

 

ネトルが入ったブレンドのハーブティー

 

ネトルが花粉症に良いとされる所以は、ネトルに含まれるフラボノイドの一つ「ケルセチン」がアレルギー症状を引き起こす原因物質であるヒスタミンの分泌を抑える働きがあるから。ただし、ケルセチンの抗ヒスタミン作用には即効性がないため、花粉症の時期以外にも長期的にネトルティーを飲む習慣をつけておくのが良いとされています。

ネトルティーはイギリスのスーパーなら簡単に手に入るため買って日常的に飲んでいたのですが、ネトルは雑草のようなもので庭や道端にもたくさん生えているのに買うのも勿体無いなぁと思い、葉を摘んで自分で作ってみることに。

 

ネトルにもいろんな種類があるのですが、うちの庭に生えているのは茎が赤いタイプのものでした
ちなみに“ネトルが生えている=庭の手入れができていない”という証拠なので、自慢できることではありません……。

 

刺毛に触れないよう分厚いグローブを装着して、綺麗な葉をこれだけ摘んでみました。見た目は大葉っぽい?

 

虫や汚れがついているかもしれないので、水でしっかり洗います(まだグローブは必須!)

 

二日間天日干しするとこんな具合に。この段階になるともう素手で触っても痛くありません

 

少し緑茶に似た風味で飲みやすいネトルティーができました

 

花粉症を患う人の数は年々増加傾向にあり、一度発症してしまったら長い時間を共に過ごしていくことになるものなので、薬を使って一時的な解決を求めるよりも、体に負担をかけない方法で症状を楽にしていくのが理想です。

 

今回はイギリスのイネ科の花粉症についてお伝えしましたが、日本のスギ花粉にしてもヒノキ花粉にしても、アレルギー反応が出るメカニズムは同じなので、ヴァセリンでもネトルティーでも、花粉症に苦しんでいる方はぜひ一度試してみてはいかがでしょうか。

 


写真・文/西田宏次朗

この記事がよかったらシェアしてください

latest issue

veggy 最新号

SNS

veggy SNS

Related posts

最新の投稿