オランダレポート第一弾! ビーガン&グルテンフリーピッツェリア

 はじめまして。この度オランダからレポートさせていただくことになりました、田中と申します。現在、アムステルダムでフリーランスのヴィーガンシェフをしています。DJや音楽制作をしたり、料理に飽き足らず、オフグリッドライフへの第一歩として、自然農も始めました。ヴィーガン歴、10年目に突入。この機に及んで執筆させて頂けるのは、非常にありがたく存じております。

 私は、3・11東北大震災をきっかけにヴィーガンになりました。

「女性として産まれたからには、いつか出産するかもしれない自分の身体に責任を持たなくては」。放射能対策から動物性食品の摂取を自ずと止め、マクロビオティックを学んで実践し始めました。

 結果オーライ。心身の調子は信じられないほど良くなるし、意識と価値観の変容は、確実に私の人生を幸せに導いてくれました。

 自分だけじゃなく、他者にも環境にも愛と思いやりと持ち、洞察をたたえて行動することが責任だと考えるようになりました。

 私たちは、偉大な美しい宇宙の一部。オーガニック・有機的であることの意義。調和していると、既に満たされていることに気がつきます。 

 大風呂敷広げると、このライフスタイルには、世界を平和にできるキーがあると信じています。

 自分がいつも正しい訳ではないし、このアイデアは傲慢かもしれません。けれども、異質同士が隣り合わせのこの世界で、双方を尊重し合い調和するコミュニケーションの素晴らしさは、ベジになってから、一番学んだことかもしれません。

 私が歩んできた道は、かなり紆余曲折です。好奇心の塊、オタク気質。自分で体験しないと納得できないタイプ。世界各地のベジレストランを訪れたり、海外の現場に飛び込んで働いたり。ベジだからこそ陥った栄養失調や人間関係の悩み、台所でも人生でも失敗エピソードは絶えませんが、失敗したからこそ学べることは多く、それを超える感動をいつも求めています。

 自己紹介が長くなりましたが、皆さんのインスピレーションになるような情報をお伝えしたい所存です。どうぞよろしくお願い申し上げます。

 原稿の依頼を頂いてから、世界は様変わりしました。コロナにまつわるオランダの状況を少しだけ。

 「インテリジェント・ロックダウン」と称される政策は、2月末に最初の感染者が見つかってから、3月半ばには実施されました。自主性を重んじるお国柄らしく、国境封鎖・外出禁止という訳ではないのですが、その分の責任をきっちり果たすことは、個人の裁量に委ねられるという感じでしょうか。皆落ち着いて自宅隔離しています。100人以上の集客が見込める場所での各業種の営業や集会は禁止。学校や美術館も閉鎖。他者とは1.5m以上の間隔をあける、自宅にゲストを呼ぶ際は3人まで、などのルールが設けられました。スーパーマーケットなどライフラインに関係する業種以外、概ねの小売店は営業していない状態が続き、いつもは賑やかなアムステルダムですが、ゴーストタウンのように静寂に包まれました。どうしても所用があって行ったセントラルステーション。構内を歩いていた人は、10人くらいだったことに驚きました。

 フリーランスや経営者などに対しての補助金対応なども既に始まり、変化する状況に応じて議会で討論がなされています。その面では非常にプラクティカルだと思います。 

 そして、2ヶ月経過。感染ピークも峠を過ぎ、少しずつ緩和措置が取られ始めました。飲食店は、デリバリーとテイクアウトのみ営業可能でしたが、6月から予約や席間をとった上で通常営業がokに。小学校も再開です。また、接触を伴う美容室やマッサージなどのサービス業も解禁。ただジムは9月までクローズ、などなど。

 私たちは、未知の体験をしています。特殊な環境にあって、溢れかえる情報の中、自分が信じることが、自分の答えだし、労わることの大切さを、私は一層痛感するようになりました。

 皆様の心の平穏とご無事を、心よりお祈りしています。

 

ヴィーガン&グルテンフリーピッツェリア「Mastino V」

  さて、本題。手前味噌で恐縮ですが、私が現在勤務するヴィーガン&グルテンフリーピッツェリア「Mastino V」をご紹介します。

 プラントベースという概念は、もはやライフスタイル以上の可能性を秘めたビジネスのトレンドマーケットでもあり、昨今、世界中で新店舗や新製品が相次ぎ誕生し続けている。筆者が拠点を置く、オランダもその比ではない。どこのスーパーマーケットでも、精肉売り場にはプラントベースミートが同様に陳列していて、精肉と共に手にする人を見ることが本当に本当に多くなった。

 オランダについての話を少しだけしょう。

 「神が世界を創ったが、オランダはオランダ人が創った」 と言う言葉が、マジである。

 国土の1/4が海抜下である土地を開墾し、世界を航海し、九州ほどの大きさの小国ながら、現在の経済大国の地位を築いた。

 この土地で生活していると、そんな歴史的背景ゆえ、臨機応変に工夫する柔軟性、パイオニア精神、ハングリーさ、リベラルな寛容性が育まれてきたんだ、と強く実感する。じゃないとやっていけない。若い世代の子に言わせると、それはうちらの祖父母が、誇りを持って話すトピックだよ、と笑されたのだが。

 一般論を引用して恐縮だが、彼らはケチだとも揶揄される。しかし、お金に対しても実直なだけなんだ。生粋のお商売人気質といえよう。だから愛想も良い、コミュニケーション力も高い。

 その上、お金では買えない幸せというものも彼らは尊重する。だから、ライフワークバランスが最高な場所だと思う。

「今までにない、誰かとは違ったものをやりたかった」

 そんなオランダのアムステルダムで、唯一のヴィーガングルテンフリーピッツェリア「Mastino V」を経営するのは、南イタリア出身のNovellaさん。

 ニッチに特化したコンセプトは、ピザだけにあらず。グルテンフリーイタリアンビールからデザートまで、徹底している。

Novella(左)、実兄のSaverio(右)、彼の妻のMatiによる家族経営スタイル。

  2015年、ローカルなカフェやバーなどで賑わうDe pijp地区に本格イタリアンピッツェリアをオープン。その後2016年、クラウドファンディングによって、Oud-west地区のBilderdijkstraatに同店を構えた。

 愚問だなぁと思いながら、「ピザはイタリア人にとって何だろう?」と質問してみた。

「DNAよ。象徴でもあるし、文化でもあるし・・・Everything!私自身、ビッグピッツァラバーとして、ピッツェリアをアムステルダムに持つことを長年夢見ていたわ」。

 インターナショナルな同都市において、イタリアンピッツェリアが軒を連ねる中、独自の路線を邁進し続けた。「グルテンフリーマーケットへの挑戦は少し自信がなかったけど、ラッキーなことにクラウドファンディングのサポートもあり、オリジナルであることにこだわりたかったし、プラントベースが今後の未来だと確信した」。

 温暖な気候とスローフードで育ったバックグランドを生かし、レシピの改良を重ねた。生地は米粉ベースだ。小麦に含まれるグルテンへのアレルギーで知られるセリアック病は、西欧社会では不可避な問題。世界中のアレルギーを持った観光客が駆け込む場所としても機能している。

 彼女自身は長年のベジタリアンだ。唯一、イタリアから運ばれるモッツアレラチーズのトッピングオプションを設けていたが、今年に入り「100%プラントベース」に舵を切った。

「フレッシュで、豊かなバラエティーのヴィーガンチーズ」

 筆者が初めて店を訪れた時、メニューの豊富さ、チーズのバリエーションに衝撃を受けた。

 ベースに使われるシュレッドチーズはもちろんのこと、モッツアレラ、パルミジャーナ、バジルペースト、ブリー…ここはヴィーガンにとってのワンダーランド!そしてグルテンフリーヘブン!

 ヴィーガンになって、ピザは食べる機会の減った品目の一つ。チーズの無いピザは、どこかピザと呼びがたいものがあるし、ヴィーガンチーズは、ちょっぴり高級品だったりする。且つてチーズを味わったことのある人間なら、よほどのクオリティでないと、正直それをチーズと呼びがたいものがあったりもする。ここでサーブされるチーズは、専門メーカー手作りの高品質でフレッシュなもの。

 だから、ここでの体験はスペシャルなのだ。

「レコメンド ピッツァ」

公式Instagramサイトより:nadia.k_photography

(写真上手前)トラディッショナルなマルゲリータ「Classica」。

 イタリアご当地野菜のフリアリエッリ(蕪の葉)、ニンニク、オリーブ、オレガノのみのシンプルイズベストな「Marinara」も同様にオススメ。

 (同中)Novellaさんのお気に入り(筆者も!)、トマトソース無しのホワイトピザ「New vegan」。薄くスライスされた数種類のポテト、ズッキーニ、トリュフオイル、サンドライトマト。レンズ豆などから作られているシュレッドチーズと、カリッとベイクされた野菜の食感のバランスが最高。

 (同奥)「Love」は、たっぷりのサラダほうれん草、バジルペスト、チェリートマト、パルミジャーノのトッピング。

 「Frieda & Diego」(写真手前)は、Novellaさんの敬愛するFrida Kahloからインスパイアされたピザ。ルッコラ、ワカモレ、コリアンダー、サンドライトマト、チリのメキシカン風。

また、週末のビュッフェイベントや、ジャズライブナイトも定期的に開催されている。

「イタリアン エクスペリエンス」

 イタリア人は、高い食文化を誇る。

 Novellaさんは、温暖な気候と美しい海と自然に囲まれて育った。父は漁師、シシリア出身の母はレストランで勤務していた。「イタリア料理は本当に美味しいのよ!私のマンマは『最初に食事、あとは二の次』と言っていた。新鮮で美味しいものを味わうこと、誰かと食卓を囲むことをとても大切にしていたし、そのエクスペリエンスをここでも楽しんでほしい」。

デザートは、見た目も美しいロッテルダム発の

ローケーキブランド「SHARP SHARP」や、ティラミスを。

ローズやサフラン、アマレットなど芳醇なイタリアンリキュールのカクテルも楽しめる。

 ローマでオランダ人の現在の夫と恋に落ち、やってきたアムステルダム。娘を持つ母として、経営者として多忙な日々を送る。「大変な時もあるわよ。スケジュールから何からをコントロールしなくてはいけない。アムステルダムでリラックスできることなんてないわ。いつもやることがある。ヒーラーに、もう少しエネルギーを下げろって言われたわ。だけど、私はイタリア人だし、これがオープンな私の性格。エネルギッシュなアムステルダムがホームだと感じるし、この街が好き。今、私は良いチームに恵まれている。素晴らしい商品や成果を誇りに思うし、多くの人がMastinoを愛してくれて、突き動かされている。お金儲けだけじゃない美しいストーリーなの」。

最後に、日本の読者へメッセージを。

 「アイラブジャパン!村上春樹も、文化も、日本食も好き。今年旅行する予定だったんだけどね・・・将来は、東京、ミラノ、世界中にMasinoを出店したいわ!日本の皆さんもコロナに負けないでください。アムステルダムに来たら、Mastinoにいらしてくださいね!」

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公式サイト:https://mastinovegan.nl/

店舗住所:Bilderdijkstraat 192H, 1053LE, Amsterdam

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プロフィール:

田中麻姫子(Makiko Tanaka)

大阪府出身。2014年、ベルリン移住後、ローチョコレートのケータリングなどを行う。2017年、オランダ・アムステルダムのKushi instituut併設レストラン「Deshima」勤務のち、様々なレストランでフリーランスヴィーガンシェフとして従事。元新聞記者。himeee名義でDJや音楽活動も行う。

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