写真/David Loftus 取材/デルガド智子 雑誌「veggy(ベジィ)」 Vol.53 掲載
*ジェイミー・オリバー(Jamie Oliver)*
1975年、イギリス・エセックス生まれ。伝統的なイギリス料理を得意とする。数々のテレビ料理番組に出演し一躍イギリスの有名シェフの一人となる。ベストセラーのレシピ本も多数。2003年にはイギリス女王陛下より飲食産業における功績を認められ大英帝国勲章MBEを受賞。2005年よりイギリス国内の学校給食改善キャンペーンに取り組んでおり、大きな成果をあげている。2012年には「子ども達に食の教育を(原題:Teach every chaild about food)」と題した講演でTED Prizeを受賞。
砂糖税導入キャンペーン活動を通して
これまで行ってきた砂糖税導入に対する活動で一番大切なことは、税制導入そのものよりも、この活動を通して訴えかけるメッセージだというジェイミー。「気づきが大切だ。自分の子供たちがどのようなものを食べ、どれだけの砂糖を不健康に摂取しているのか、気がつくように目を向けさせることが重要なんだ」と語る。
砂糖を含む清涼飲料水などは、普段からバランスのとれた健康的な食生活を送っている中で、時折口にする嗜好品であるべきで、毎日飲むべきものではない。そのため今回の増税で清涼飲料水が値上がりしたとしても、毎日飲んでいる量を減らすことで、食費に大きな負担がかかるべきものではない、というのがジェイミーの考えだ。
さらに、今回の税の徴収は飲料業界に砂糖の使用量を減らすことを目的とした税制であり、一部メディアが伝えて誤解を招いているような貧しい人に対する増税ではないということも重要な点だ。確かに統計によると経済的に困窮している家庭の子供たちは、清涼飲料水などを大量に取る傾向があり、さらに肥満になりやすく健康問題を抱えやすいことは事実だという。だからこそ、「砂糖税導入をきっかけに、砂糖がたっぷり入った飲料水よりも、ミルクやお水、フルーツジュースといったもっと安くて健康的な飲み物があるということを多くの人に気づいてもらうということが非常に大切だ」と述べている。
今回の砂糖税がチョコレートなどの砂糖が明確に入っていることが分かりやすい甘いものでなく、清涼飲料水に導入されることは意味があると述べるジェイミーは、 「人々は何気なく飲んでいる清涼飲料水に、どのくらいの砂糖が含まれているのか気づいていないからです」と語る。
清涼飲料水には平均して、ティースプーンで9杯分もの砂糖が含まれている。標準体型の大人が摂る砂糖の上限はティースプーン6杯〜7杯だということを考えると、どれほど大量の砂糖が含まれているのかがよくわかる。このことに気づかずに、毎日の様にたくさん飲む子供たちやティーンエイジャーがいることが大きな問題なのだ。
砂糖は果たして本当に食べてはいけないのか?
しかし砂糖に関しては様々な声も上がっている。その一つが人気シェフのジェミーの提案するレシピには砂糖が多く含まれているデザートもあり、そのことでやっていることと矛盾しているのではないか? という意見だ。だがここでジェイミーが強調しておきたいのは、ジェイミー自身は“砂糖に反対”の立場ではないということだという。
彼は砂糖を含む甘いもの全般を否定しているわけではない。彼自身、5人の子供の父親であり、最新のインタビューで「甘いものを食べることは人生の楽しみでもある」と発言している。これに関しては、自分の子供に対して砂糖入りお菓子を全く食べさせないストイックな親が一部いることに対して向けられた発言だとも取られた。
「例えば誕生会や、その他の特別な日に砂糖入りのケーキや甘いお菓子を食べてもいいと思うよ。普段から健康的で栄養バランスのとれた手作りのものをきちんと食べていたら、時々甘いものを子供たちが食べることは問題ないよ」と、あくまでもバランスが大切だと強調している。
またジェイミーが砂糖税に対して指摘しておきたいのは、今回の税の徴収は砂糖を含む「清涼飲料水」に対してであり、「砂糖」に対しての課税ではないということだ。 その理由は、清涼飲料水が子供達の食生活において一番大きな砂糖の摂取源となっているからだ。特別なご褒美としてのケーキなどと違って、子供によっては、清涼飲料水はほぼ毎日しかも多量に消費されている。バランスのとれた健康的な食生活を送る上で、時々適切な量の清涼飲料水を楽しむ分には問題がないが、ほぼ毎日、水を飲むのと同じ感覚で飲んでいる子どもたちが非常に問題なのだと指摘しており、そのための「清涼飲料水」に対する課税であることに意味があると述べている。
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上写真はジェイミー・オリヴァーも称賛した、オーストラリアの映画『あまくない砂糖の話』。
【 監督・脚本 】 デイモン・ガモー
【 出演 】 デイモン・ガモー、スティーブン・フライ『BONES -骨は語る-』、イザベル・ルーカス『トランスフォーマー/リベンジ』
2015年制作/オーストラリア映画/原題“THAT SUGAR FILM”
配給:アンプラグド 公式HP:amakunai-sugar.com
シュガー・スマートUK運動とは?
今回の砂糖税導入に先立ち、「シュガー・スマートUK」という草の根運動を行なってきたジェイミー。これは全ての人々に砂糖の摂取量を自覚させて、減らすよう促す気づきを与えることを目的としたフードレボリューションのキャンペーンだ。学校、病院、観光施設、スポーツ競技場などで、砂糖の摂取を控えるよう助言するなどの活動を行い介入してきた。
また清涼飲料水が子供たちの主な砂糖の供給源になっていることから、シュガー・スマートUKの重要な役目は正しい知識を提供することでもあるという。
さらにジェイミーは、政府が子供たちの健康問題についてもっと真剣に取り組み、優先事項として取り組むべきだと訴えている。
そこで彼は医療の専門家とともに、イギリス国内の子供の糖尿病問題に取り組むための6か条を考え、提案している。この6か条では人々がもっと食べ物に対して注意を払い、栄養について考え、食生活を変えることの重要性を訴えたいとしている。そして この国の将来を担う子どもの健康を考えることは今すぐ取り組むべき重大な課題だとして、政府には地域と一体となって、さらなる政策を導入するよう後押しする役目になることを望んでいる。
当時のイギリス首相であったキャメロン首相に直接提出された提案内容は、以下の6か条だ。
*砂糖税の導入
*企業に対しての砂糖使量の軽減の義務付け、従わない企業への罰金
*わかりやすいラベル表示(どのくらいの砂糖が含まれているのか明確に分かるラベル付け)
*食育、健康的な学校給食の推進
*夜9時までジャンクフードやお菓子の子ども向けのテレビコマーシャルの禁止
*親の意識の改革、過体重を防ぐため11歳以下の子どもの定期的な体重・身長測定を行う
ジェイミーはこれからもこの6か条を政府に訴え続けていくことの重要性を説いており、引き続き課題となっている。
フードレボリューションの未来
今回の砂糖税導入はジェイミーがこれまで取り組んできたフードレボリューションのほんの一部の成功に過ぎないという。
「砂糖税を導入することで、親を含む多くの人々を正しい方向に目を向けさせることができる。しかしやはり一番大切なことは、教育だ。ヘルシーな食生活と栄養について知ること。子供たちの健康問題にもっと関心を払うこと」と述べ、その一環として「食育」の重要性を強調している。食育により様々な知識を持つことで、子ども達ももっと食べ物に興味をもち、食べるものに対して注意深くなり、何よりもさらに良い選択肢を与えることができる。そしてまた「栄養価」について基本的な知識を持つことも大切だ。適切でバランスのとれた栄養を取れなければ、子供達は健全な肉体を築くことができない。健康的な生活習慣のためにも栄養価に対する正しい理解と知識は不可欠だ。そしてもちろん、砂糖を含む嗜好品は適度な量を時々楽しむにとどめるということを理解することが大切だ。
ちなみにジェイミーの展開するレストランでは来春以降、メニューの飲み物全てに、ティースプーンで何杯の砂糖が含まれているのかを分かりやすく表示するようになるという。このことによってレストランを訪れる人々がどのくらいの砂糖を摂取することになるのかを、気がつかせ、健康について考えてもらうことを目的としているという。
ジェイミーはこれからもフードレボリューションを通して、食育、調理の仕方、食べ物を無駄にしないこと、環境に考慮すること、などを掲げて地球の将来を担う子どもたちのために「食」を通した活動を続けて行くという。今回の砂糖税導入は、ジェイミーが今まで取り組んできた様々な健康推進キャンペーンのごく始まりに過ぎず、これからも彼の挑戦は続く。