種を知る旅〜Seeds of Life〜インド発!ヴァンダナ・シヴァのオーガニック革命

インド経済を支えるコットン産業の中にも少しずつオーガニックの大きな流れができ、貧しい人々をサポートしたり、伝統工芸を支えるフェアトレードなども少数派ながら点在するインド。そんな今日の流れのキッカケは、マハトマ・ガンディの唱えた非暴力の精神からだったのでした。

写真・文/吉良さおり

 

生物多様性へとつながる、伝統文化の継承

“暴力による報復は、さらなる暴力を生む”として、非暴力や不服従を貫いたインド独立の父であるマハトマ・ガンディ。まだインドがイギリスの植民地だった当時、イギリスの機械による繊維産業によってローコストな大量生産が可能となり、インド伝統の手紡ぎが衰退を余儀なくされ、繊維産業従事者は多大な貧困に喘いでいました。そこでガンディはインド人の自立を目指し、“自分の衣服の糸は自分で紡ごう”という運動を起こし、国民に手紡ぎのカディを着るように促しました。かつてガンディが行ったこの功績や思いは、今もインドの人々に根強く支持されています。手紡ぎ・手織りは機械織りより高価であるにもかかわらず、インドではとても人気が高く、不均一な織りがなす通気性の良さや美しい風合いのカディをひとたび着ると、もはや機械織りには戻れないとまで言われています。

 

ある村から始まった静かなる抵抗

1970~80年前後、インド国内においては民衆運動が高まっていた時期とされ、ちょうどその頃ある村に、開発という名のもと大企業による森林伐採が推し進められようとしていました。その時、その村の女性たちは木々に抱き付くことでこの森林伐採に抵抗したのです。この草の根的な運動はチプコ(抱擁)運動と呼ばれ、瞬く間に拡大し、最終的には森林伐採禁止の勝利を勝ち取り、さらに国家の天然資源政策にも圧力をかけていったそうです。そもそも日本やその他の国でもそうであったように、片田舎の村に住む昔の女性たちは、日々ごく当たり前のように自然と関わり合いながら暮らしていました。当時の女性は子育てもしながら、水汲み、薪集め、農業などの労働も行っていたため、自然をある程度読めなければ生活に支障が出ることから、自然に対してはとても敏感にならざるを得なかったのかもしれません。本来女性には防衛本能が備わり、育むという意識が強いことから、このチプコ運動のリーダーが女性であったというのも、全く不思議ではありません。そしてこういったインドにおける民衆運動の根底には、いつもガンディの思想があったのです。

 

ヴァンダナ・シヴァ氏の運営するナヴダニヤ農場を訪れた、オーガニックに関心が高いというチャールズ皇太子。

 

種は生命のすべて、種の自由が私たちの真の自由に繋がる。

そしてガンディ思想の影響を受け、チプコ運動当時はまだ20代だったというヴァンダナ・シヴァさんも、その運動にボランティアで参加したひとり。このボランティアがキッカケとなり、ちょうどその頃は物理学が専門だったことから、環境問題や農業へと関心が高まり、30歳で科学・技術・自然資源政策研究財団を立ち上げ、その後は環境哲学者となり、もうひとつのノーベル賞とされるライト・ライブリフッド賞を受賞します。1991年には、NGO団体ナヴダニヤを発足し、シードバンク(伝統的な種の保存)や種の学校も作り、ナブダニヤ農場での有機農業、フェアトレードなどの活動を始め、2001年には持続可能な生活をテーマとした国際大学を設立しました。現在、デリーに彼女の団体が運営するオーガニックカフェがあり、そこではオーガニックの自然食品やフェアトレード製品も扱っています。

 

デリー中心に位置する、ナヴダニヤのオーガニックカフェ。

広大なオーガニック農園もインド国内で運営するナヴダニヤ。オリジナル食材を沢山ラインナップ。

カフェ食材のほとんどを自社農園で栽培。

店内でベジタリアン・タリーを注文。ヴァンダナ・シヴァ氏自身がベジタリアンなので、カフェ・メニューも全てベジタリアン対応。

世界的な環境活動家、フェアトレード、エシカルなどの活動をしている方々は、基本的に皆さんベジタリアンである場合がほとんどです!

古来の暮らしを余儀無くされるある特定の国を除くと、先進国や都心部で暮らす現代人は古代人とは状況・環境が違いますから、環境のこと、生物多様性のこと、資源の枯渇についてなどを考えると、ベジタリアンであるべき理由は沢山ありすぎますね。

フェアトレードの丁寧な作りの雑貨も並ぶ。

スタッフは、皆んなオーガニック、エコ、エシカルな思いで集っている。

“一握りの大企業や強国が、この地球の資源をコントロールし、何でもビジネスにして売りに出してしまう。彼らは私たちの水、遺伝子、細胞、知識、文化、さらに未来までも売ろうとしているのです”と、常に貧しい人々や女性の視点に立ち、開発・発展という名目の搾取構造やグローバリゼーションのもたらす矛盾に対して、鋭く追求している世界的活動家として知られるヴァンダナ・シヴァさん。さらに“遺伝子組み換えや農薬といった毒性のあるものには往々にして攻撃的なメタファーがあり、それらは全て地球に対する暴力であり、戦争でもある”といいます。インドに農薬や化学肥料が入ってきてから、農業従事者の多くが酷い悪循環に見舞われたそうで、これに関してはヴァンダナ・シヴァさんの著書やDVDでも詳しく説明されています。

かつてはだれもが個々で自家採取をして種をつなぐことができましたが、現在では大企業が種の特許を握り、これは世界的な巨大ビジネスとなっています。私たちは今、そういったグローバル企業の貪欲なるマーケットに従うのか、もしくは地球環境や生物多様性を維持する自然の法則に歩み寄るのか、このふたつの選択を迫られているのかもしれません。

そして2018年5月7日、インド・デリー最高裁は、「種子と植物の多様性は特許化できない」として、モンサント社による遺伝子組み換えコットン種子(BollgardとBollgard II)の特許を認めないという判断を下しました。

私たちはこういったニュースを、もっと真剣に受け止めなければならないのではないでしょうか?

 

ヴァンダナ・シヴァ:環境活動家、科学哲学博士、カナダやインドで量子力学と生態学を学び、有機農業、種子保存を提唱し、農薬、化学肥料、遺伝子組み換えに反対する国際的な運動の指導者。邦訳書に「生物多様性の危機」、「緑の革命とその暴力」など多数。

 

Love Peace veggy!

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