アボリジニの血が流れるシンガー・ソング・ライターが語る、海や大地と繋がる方法

−−プロフィール−−
Xavier Rudd/ザヴィエル・ラッド
約30種類以上もの楽器を操るオーストラリア出身のシンガー・ソングライター。
ジャック・ジョンソンやGラヴなどミュージシャンのサポートを務め、2004年にアルバム『ソーラス』でデビュー。名だたるフェスティバルへの出演や、世界中を回るツアーを行っている。 アーティストの情報やツアースケジュールなどはウェブサイトをご覧ください。http://www.xavierrudd.com
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オーストラリアとカナダの両国に市民権を持ち、約30種類の楽器を巧みに操るシンガー・ソング・ライターのザヴィエル・ラッド。その魅力的なヴォーカル以上に、彼の音楽性を語る上での魅力となるのがアボリジニの民族楽器で「ディジュリドゥ」と、ドイツ発祥の「ワイセンボルン・ギター」だ。現代と伝統の影響が融和した心地よいハーモニーに乗せて、ザヴィエルは“母なる大地”や人間、感情といったテーマを詞に込めて唄いあげる。ライブでは、大半の場合がたった一人でのステージだ。彼以外には誰もいないソロの舞台で、世界各地の聴衆を魅了し続けている。厳格なベジタリアンでもあるザヴィエルは、その人柄と音楽性、そして先住民や環境のための活動から、母国オーストラリアだけでなく、アメリカやヨーロッパでも注目を集めているミュージシャンである。そんなライブのスタートを数時間後に控えた彼に話を聞いてみた。

べジィ編集部
-あなたは、なぜベジタリアンというライフスタイルを選択したのですか?

ザヴィエル
-僕が生まれ育ったオーストラリアでは、先住民たちはカンガルーを殺します。彼らは厳しい伝統を守り、空腹であっても条件がそろわなければカンガルーを殺してはいけないというしきたりがある。僕自身は、動物性しか選択肢がない状況でもベジタリアンであることを貫きます。だけど、オーストラリアの奥地で暮らし、厳しい儀式に倣いながら動物を狩る先住民の生き方は理解できる。スーパーマーケットで売られているものとは、また別の話だから。そこでは誰が切ったかも分からない肉がたくさん並べられている。大量生産された何百万という動物たちが、虐げられ、殺され、細かく切り刻まれて売られているのさ。そういったものは断固として受け入れられない。

べジィ編集部
-あなたは世界中をツアーでまわり、カナダでも多くの時間を過ごします。オーストラリアで暮らす家族との時間を見つけるのは大変ではないですか?

ザヴィエル
-そうだね。だけど、何が自分にとって本当に大切かを見極めるようにしているんだ。僕は毎年数ヶ月間をオーストラリアで過ごす。最近、新居が完成したんだけど、その家はとてもこだわって作られているよ。ストローベイル建築で、100%環境に配慮しているし、資材の95%はリサイクルされたものを使っている。例えば、近隣の街まで行って、海辺の古い家から出た廃材を回収して再利用したりね。新居から出る廃棄物も全てが自然な方法で処理されていて、「みみずコンポスト」でゴミをリサイクルし、水も植物を利用したシステムで浄化している。こういう方法で暮らしていると、自分が取るあらゆる行動に対して敏感にならざるを得ないんだ。浄化システムに不自然なものが入ったりすると、ただちにミミズや植物がダメージを受けるからね。だから毎日が学習だよ。その積み重ねを通じて、いつも慎重にならなければいけない。だけど、これはとても気持ちのいいものだよ。自然の循環について理解できるようになっていくからね。家には4歳と9歳の息子が2人いて、こういったことを学びながら育てている。これは子どもたちにとって、とても価値のあることだと思うんだ。

べジィ編集部
-電気はどうしているんですか?

ザヴィエル
-100%太陽発電のエネルギーだよ。建築時に、周囲の木を一本も切り倒さないようにしたから、この家はとても上手い具合に自然と調和しているんだ。木々がよい日除けになってくれているけれど、毎日数時間は家に直射日光があたって、充分なエネルギーを得ることができるよ。

べジィ編集部
-あなたの音楽はオーストラリア先住民の音楽の影響を強く受けていますね。あなた自身、先住民や彼らの文化と、どのようなつながりがあるのですか?

ザヴィエル
-僕には先住民の人々と、とても強いつながりがある。国中にアボリジニの友人がいるし、僕の曾祖母はアボリジニで、彼女の魂が今も僕に受け継がれている。この感覚はとても強烈なもので、曾祖母や先住民の文化と深いところでつながっているのが僕にはわかる。物心ついた頃からずっとこのつながりを感じてきたんだ。

べジィ編集部
-”Things meant to be”という美しい曲の中で、“海の奥深くに目を凝らしてごらん。きっと君にも見える”と歌い、海や木々や植物、母なる大地は私たちの友だちであると教えてくれています。しかし、大量消費社会に暮らす私たちは、そういった感覚や自然と調和した魂を、まだ失わずに持っているのでしょうか? それともこれはもう郷愁や空想にすぎないものに成り下がってしまったのでしょうか?

ザヴィエル
-もちろん、まだ失っていないと思っているよ。僕のこの感覚は先祖から受け継いできたものだけど、もし自分の本質やルーツを無視しつづければ、どんな人であれ、そういったつながりを失うことになってしまうだろうね。先祖から受け継いできたものは僕にとって非常に大切なものだから。オーストラリアに戻ると、それをとても強く感じることができる。僕はその感覚を歌にするんだ。

べジィ編集部
-あなたのライブではオーディエンスがとても熱狂的ですね。みんないろんな形であなたへのサポートや幸福感を表現している。素晴らしい雰囲気だと思います。

ザヴィエル
-僕がライブですることは、音楽を通して何かをみんなに与えること。そうやってみんなとつながるんだ。音楽はそれを容易にしてくれる。みんなと強くつながりたくて、僕がより多くのものを差し出すと、多くのものが返ってくる。一緒に経験することによって、僕らのエネルギーは一体になる。本当に言い尽くせないほど素晴らしくて、僕が心から好きな体験だ。日々世界のどこかで、たくさんの素晴らしい人たちの前で自分の音楽を奏でることができるということは素敵な経験だよ。ライブに来る人たちは、それぞれが抱えている問題をひとまず家に置いてくる。少なくともその最中は問題から解放される。それは本当に大切なこと。それが音楽の機能でもあるしね。みんないいエネルギーを持ってやって来る。僕もいいエネルギーで臨む。そうすることで、みんなの心が満たされて、元気になることができる。その場にいる全員で分かち合うこと、それがライブのすべてだよ。

べジィ編集部
-最後の質問です。なぜサーフィンがあなたにとって特別なのか教えてください。

ザヴィエル
-単純なことさ。サーフィンをしている間は“大いなる自然”と一番つながることができる。海を感じることは素晴らしい感覚だ。波が寄せては引くように、海は絶え間なく動いている。生命の本質、循環という偉大な力を感じることができる。サーフィンを通して、自分もその一部になることができるんだ。入江で波に乗っていると、僕の他には誰もいないことがある。そんな時、僕はたった一人で、自然のエネルギーと完全につながった感覚にひたりながら、海と一緒に踊るんだ。

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雑誌veggy(ベジィ)バックナンバーVol.9より抜粋

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